「4時間の幸せと、30分の空白」。平凡な自転車乗りの崩れ去る日常

そして、買ってから4時間後に、その真っ赤な自転車は忽然と姿を消した……。

全身の毛という毛、うぶ毛までぞわわわっと逆立ち、うっすらと吹き出した汗で身体が一気に冷えた。

血管を伝って鼓動が聞こえるほど心臓がバクバクする息苦しさと、膝が折れてしまうような脱力感。

時が一瞬止まったかのようでした。

ぐわわわ……盗まれたぁ。。。。

 

町田の東急ハンズで自転車グッズをお買い物するために駐輪、これが新車のスタンプジャンパーの見納めの時でした。

すぐに買い物を済ませて出るつもりだったので、駐輪場ではなく、建物の壁に立てかけていたのです。

表通りに面して車道からもよく見える東急ハンズの白い壁。そこに真っ赤なスタンプジャンパーが映えて、非常に美しかった。いまでもその鮮やかなコントラストが目に焼き付いて離れません。

僕はウムウムとご満悦で店内へ入りました。東急ハンズのエスカレーターを上りながらルンルンでした。その時の心情は、詩が書けるんじゃないかと思うほどでした。

 

もちろん鍵はかけていましたよ。

 

芯が5mmほどの細いワイヤーロックで、4ケタのダイヤル錠でした。

そしてどこかにひっかけるわけでもなく、フレームと後輪をくくっただけだったのです。

もうね、盗んでくれと言わんばかりの状態でした。

窃盗団をおびき寄せるためのワナか? そう思えるぐらいの無防備さだったのです。

 

 

30分ほどの空白の時間になにが起こったのか?

 

もしかして解錠状態からダイヤル一桁をワンクリックしかずらしていなかったから?(←ここが一番ダメかもしんない)。

それともその場でワイヤーを切ったのか?

いや、現場に鍵は落ちていなかった……。犯人はクルマで乗り付けて持ち去ったのだ!

まてよ、確か12kgぐらいの重量だったから、徒歩で持ち去ることも容易だ。スキだらけの自転車が引き起こした行きずりの犯行ということも考えられる。まさに泥棒ホイホイ状態。

ホイホイごと、逃げられちゃいましたけどね(泣)。

いずれにせよ、わが愛車は消えた。買ってからたったの4時間で!!!!!

 

当日は彼女と待ち合わせをしていた。

僕は待ち合わせの時間まで走り回って愛車を探し、全身が汗だく、目にはうっすら涙を浮かべてしょげかえっていた僕の姿は、彼女の目にどう映ったのでしょうか。

 

 

 

 

僕は激しく後悔した。

 

ダイヤルを4ケタ全てぐっちゃぐちゃに回しておけば!

いや駐輪場に置いておけば!

駐輪場の支柱にくくりつけておけば!

もっと頑丈な鍵にしておけば!

いや、そもそも大切な自転車を駐輪しなければ!

 

いろんなタラレバが頭をよぎるばかりです。

心にポッカリ大きな穴ができちまった。

彼女は隣にいるのに、ぼっちな気分だぜ……。

どこにでもいる平凡な僕の、静かな日常が音を立てて崩れ始めた……。

そして鉄のフレームを盗まれた僕の元に、気が強い同級生の幼なじみと、品行方正ツンデレな委員長と、お金持ちでおしとやかなお嬢さまと、恥ずかしがり屋さんな下級生と、無口で謎めいた転校生(髪の色は青)などの美少女が矢継ぎ早に登場。

学園内で立ち入り禁止になっている裏山にある謎の自転車沼から、女神様にコスプレした美少女たちが神々しく現れて、銀の自転車と金の自転車の二者択一で迫り、そのうえなぜか僕に好意を寄せてくる、男視点でやたらと都合の良いイベントフラグ立ちまくりの学園ロマンス。

そして失われし聖なる自転車を探す冒険の旅が、いま始まる!(ラノベか?)